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福岡地方裁判所 昭和41年(タ)2号 判決

原告(反訴被告) 甲野一子

右訴訟代理人弁護士 湯川久子

被告(反訴原告) 甲野一太郎

右訴訟代理人弁護士 吉野作馬

主文

一、本訴原告と本訴被告とを離婚する。

二、本訴被告は、本訴原告に対し、金二〇〇万円およびこれに対する昭和四一年五月二四日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

三、本訴被告は、本訴原告に対し、財産分与として、別紙第四目録記載の家屋についての訴外甲野花に対する賃借権および動産類等旅館営業用財産を含む右家屋による旅館「福千」の営業を譲渡せよ。

四、本訴原告のその余の慰藉料請求ならびに反訴原告の請求をいずれも棄却する。

五、訴訟費用は、本、反訴とも本訴被告(反訴原告)の負担とする。

六、この判決は、第二項に限り、本訴原告において金五〇万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告(反訴被告。以下単に原告という。)

1、本訴につき

(一)、原告と被告(反訴原告。以下単に被告という。)とを離婚する。

(二)、被告は、原告に対し、金三〇〇万円およびこれに対する本件本訴状送達の日の翌日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)、被告は、原告に対し、別紙第一目録記載の土地および同土地上の仮設建物であるガレージまたは金四〇九万九、〇〇〇円を財産分与せよ。

(四)、訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決ならびに第(二)、(三)項についての仮執行の宣言

2、反訴につき

(一)、被告の請求を棄却する。

(二)、訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決

二、被告

1、本訴につき

(一)、原告の請求を棄却する。

(二)、訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決

2、反訴につき

(一)、被告と原告とを離婚する。

(二)、原告は、被告に対し、金八〇〇万円を支払え。

(三)、原告は、被告に対し、別紙第二目録記載の各不動産についての持分二分の一を財産分与せよ。

(四)、訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決

≪以下事実省略≫

理由

一、まず、原告の本訴請求について判断する。

1、離婚の請求について

≪証拠省略≫によると、原告は、父である訴外甲野一夫と母である訴外甲野花との間の長女であること、原告と被告は、昭和一二年五月一日、結婚式を挙げて、同棲し、同月二五日、婿養子縁組婚姻の届出をしたが、昭和二一年六月一二日、一旦協議離縁離婚の届出をし、その後、別居したところ、昭和二二年一二月ごろ、再び事実上の夫婦として同棲を始め、昭和二三年八月五日、原告の氏を称することとして、再度その婚姻の届出をなしたこと、そして、原、被告夫婦間には、初度目の前記届出後の昭和一三年四月三〇日に長女月子が、同じく昭和一七年一月一三日に二女雪子が、再度の前記届出後の昭和二三年一〇月一九日に長男一郎がそれぞれあいついで出生したこと、もっとも、右月子はその出生の日の翌日である昭和一三年五月一日、死亡したことをそれぞれ認めることができ、これらを覆えすに足りる証拠はない。

そして、≪証拠省略≫を総合すると、被告は、原告の現住所である別紙第四目録記載の家屋で原告および前記雪子、同一郎の二子と同居中、昭和三三年春ごろから、当時福岡市内の飲食店で仲居をしていた訴外乙村乙子とねんごろな仲となり、同年九月ごろ以降は、同訴外人と情交関係を結び、旅行先その他の出先の場所や別紙第三目録記載二の家屋の増築二階などで同訴外人と情交を重ねたあげく、昭和四〇年一〇月ごろには、ついに、前記同居家屋を出て、右増築二階で同訴外人と同棲するにいたったこと、かくして、原告と被告は、それ以来、全く別居したままで現在におよんでおり、原、被告間の夫婦関係は、被告の右の情交関係継続、同棲の所為を原因として、いまはすでに、回復不可能なほど破綻をきたしていることをそれぞれ認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

以上認定の諸事実によると、被告の右所為は、民法第七七〇条第一項第一号所定の離婚原因である「配偶者に不貞な行為があったとき」に該当するものと認めるのが相当であるから、他に原、被告間の婚姻関係を継続させるのを相当とするような事情のあることの認められない本件においては、右の離婚原因にもとづいて原告と被告との離婚の裁判を求める原告の被告に対する請求は、正当として、これを認容すべきである。

2、慰藉料の請求について

配偶者である被告の不貞行為により原告が被告と離婚するの止むなきにたちいたったこと前記のとおりである以上、原告がそのために精神的打撃をこうむったことは、自明の理であるから、被告は、原告に対し、そのこうむった精神的苦痛を慰藉すべき義務があるものというべきであるところ、前認定の各事実その他本記録にあらわれている一切の事情を考え合わせると、原告のこうむった右精神的苦痛を慰藉するためには、少くとも金二〇〇万円を必要とするものと認めるのが相当である。

そうすると、原告の被告に対する慰藉料の請求は、右金二〇〇万円およびこれに対する本件本訴状送達の日の翌日であることが本件記録に照らして明らかである昭和四一年五月二四日以降完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては、正当であるから、これを認容すべきであるが、その余の請求は、失当として、これを棄却すべきである。

3、離婚にともなう財産分与の請求について

原告の本訴提起の日が昭和四一年一月一四日であることは、本件記録に照らして明白であり、この事実に、≪証拠省略≫を総合すると、別紙第一目録記載の土地の現在の登記簿上の所有名義人は、被告であり、同地上には、現在、仮設建物であるガレージが存在すること、もっとも、右土地については、原告の本訴提起後である昭和四二年一〇月二日付で、債務者を被告とし、根抵当権者を訴外○○市商工信用組合として、同じく原告の本訴提起後である同年九月二九日の金融取引契約のための根抵当権設定契約を原因とする根抵当権設定登記が経由されていること、そして、同土地は、被告が昭和三三年二月四日訴外小柳国雄から代金七九万一、一三六円で買い受け、同月五日その所有権移転登記を経由したものであり、右仮設建物は、被告がその後同土地上に建築したものであること、しかし、被告の右土地、建物の購入、建築は、いずれも、後記の旅館「富士」の営業なくしては、とうていなし得なかったものであって、同土地、建物は、いずれも、原、被告の婚姻中に被告が原告の協力のもとに得た財産であることをそれぞれ認めることができ、これらを覆えすに足りる証拠はない。しこうして、鑑定人岡本新一の鑑定の結果に鑑定時(昭和四三年三月三〇日)以降の物価を考え合わせると、右土地、建物の現在の価格は、少くとも金四〇九万九、〇〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。

また、≪証拠省略≫によると、○○市五五局三、五三九番(電話加入原簿上の設置場所は、同市○○○丁目一一―二)ならびに同市五二局四、六九五番(電話加入原簿上の設置場所は、同市○○○丁目一八―一一)の各電話加入権の電話加入原簿上の名義人は、いずれも、被告であること、そして、右各電話加入権については、同各加入権を合わせて、元本極度額を金三〇万円とする質権が設定されていることをそれぞれ認めることができ、これらを左右するに足りる証拠はない。

もっとも、≪証拠省略≫を総合すると、前記第三目録記載の土地、建物の登記簿上の所有名義人も、もと、被告であって、同土地、建物は、いずれも、被告が昭和三五年七月八日他から買い受け、同月一一日それらの所有権移転登記を経由し、昭和三六年二月ごろ、同建物で一旦飲食店「一杉」を開業したが、同年夏ごろ、これを廃業し、昭和三七年春ごろ、同建物に前記二階を増築したものであったこと、しかし、被告は、原告の前記の本訴提起の日の後である昭和四三年二月二九日、訴外株式会社西日本相互銀行に対し、右土地、建物を、代金九〇七万五、〇〇〇円で売却処分し、同日、その所有権移転登記が経由されるとともに、右代金全額を受領したこと、そして、被告の右土地、建物の購入もまた、後記の旅館「富士」の営業なくしては、とうていなし得なかったものであって、同土地、建物も、原、被告の婚姻中に被告が原告の協力のもとに得た財産であったことをそれぞれ認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫しかし、≪証拠省略≫を総合すると、右売得金九〇七万五、〇〇〇円は、その後、負債の弁済などのために費消されたことを認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。

一方、≪証拠省略≫を総合すると、別紙第四目録記載の家屋の現在の登記簿上の所有名義人は、原告の母である前記甲野花であって、同家屋については、昭和一七年九月一日付で、昭和一五年一一月二〇日の売買を原因とする右甲野花への所有権取得登記が経由されていること、そして、同家屋の現在の賃借名義人は、原告であり、その賃料月額は、金二万円であること、また、同家屋による前記「富士」の旅館業の営業名義人も、原告であることをそれぞれ認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。しかし、右認定事実に、前認定の原、被告夫婦の初度目の婿養子縁組婚姻届出の日、協議離縁離婚届出の日、再度の婚姻届出の日および完全別居の日に関する各事実、≪証拠省略≫を総合すると、右第四目録記載の家屋は、もともと、原告の前記父母が他から賃借して、同家屋で飲食店兼仕出料理屋を経営していたのを、被告の婿養子縁組婚姻後これを買い取ったものであって、右の原告の母名義への所有権取得登記も、被告の出征不在中になされたものであったこと、被告は、原告との再婚当時、自己の間借先で、原告および前記雪子とともに同居しながら、○○市内の割烹旅館に勤務していたのであるが、原告の右父母方が前記の飲食店兼仕出料理屋の家業を廃業し、多額の租税を滞納したあげく、右家屋を売りに出しているような窮状にあったので、原告とともに右甲野花と相談をしたところ、同女との間において、被告が同女から右家屋を賃借し、同家屋で旅館業を営むことに話合いが成立し、昭和二三年八月ごろ、原告および前記雪子を連れて、同家屋に移り住み、右甲野花らは、前記第二目録記載の家屋(花は、同目録記載一の家屋)に移転したこと、そこで、被告は、その蓄えの大半を投じて、前記滞納税を完納するとともに、右家屋の修理をもなし、一時同家屋を配炭公団に寮として転貸した後、同家屋につき、同家屋の所有者兼賃貸人は右甲野花として、旅館業の営業許可を受け、かつ、昭和二六年一月二〇日、特別徴収義務者として、○○○財務所長に対し、被告が右家屋を営業場所として屋号を「富士」とする旅館業を営むことの登録申請をして、登録番号二五四八の登録を受け、同年二月ごろ、同家屋で、ひとまず客室五室ならびにわずかの備品類をもって、営業者を被告とする旅館「富士」を開業したこと、かくして、被告は、その後、逐次資金を調達して、度々右家屋の増改築を断行し、日本交通公社からは協定旅館の指定を受けるなどして、旅館「富士」を、客室一二室で、団体客を一〇〇名以上収容できる大学前では一流といえるほどの旅館にまで発展させたこと、そして、右旅館の経営は、当初から、原、被告が協力してこれにあたっていたけれども、同旅館の開業や数次にわたる増改築に際しては、被告が独力でそれらの費用を調達したものであったこと、ちなみに、被告の前記甲野花に対する右家屋の賃料月額は、当初が金一万七、二〇〇円、昭和三二年一月以降が金一万八、〇〇〇円であったこと、被告は、前記飲食店「一杉」開業後は、主として同店の経営にあたり、右旅館「富士」の経営は、原告が中心となってこれにあたったこと、もっとも、右飲食店「一杉」廃業後、前記長男一郎が発病入院した際は、原、被告が協力して同長男の看病と右旅館「富士」の経営を分担するようになったこと、ところが、原、被告の前記別居後は、原告が右旅館「富士」の単独経営を続けたこと、のみならず、原告は、昭和四二年六月三〇日付で、関係官庁に対し、被告名義を冒用して、ほしいままに右旅館「富士」の旅館業廃業届を提出したうえ、同年七月一八日付で、前同官庁から、同旅館による原告名義の営業許可を受け、さらに、前記財務事務所長に対しては、同年八月五日付で、「夫別店舗経営のため」と称して、営業者変更の登録事項変更登録申請をなし、その変更登録を受けていること、しかし、右第四目録記載の家屋についての賃貸人を前記甲野花とする賃借権ならびに同家屋による右旅館「富士」の営業権は、いずれも、これまた原、被告の婚姻中に原、被告が協力して得た財産であったことをそれぞれ認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

また、前認定事実に、≪証拠省略≫を総合すると、○○市六五局一、六七六番の電話加入権の電話加入原簿上の名義人は、原告であることを認めることができ、これを動かすに足りる証拠はない。

さらに、前認定の原、被告夫婦の初度目の婿養子縁組婚姻届出の日、協議離縁離婚届出の日、再度の婚姻届出の日および完全別居の日に関する各事実に、≪証拠省略≫を総合すると、前記第二目録記載一、二の各家屋の登記簿上の所有名義人は、いずれも原告であること、同各家屋については、いずれも、昭和一九年一二月一六日付で、同日の売買を原因とする原告名義への所有権取得登記が経由されていること、また、同目録記載三の土地は、右各家屋の敷地であって、もと○○県の所有であったのを、被告が原告名義で同県から払下げを受けることになったものであり、その払下代金一一四万二、五〇〇円は、前記の原、被告完全別居後五年足らずの昭和四五年九月二九日をもって、全額支払われていること、そして、右各建物、土地は、いずれも、これまた、被告の協力なしには得られなかった財産であることをそれぞれ認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

なお、≪証拠省略≫を総合すると、被告は、大正三年二月一八日生れであって、原告との間の婚姻前からの固有財産と目すべきほどのものは有していないところ、現在、虚弱なため、前記仮設建物内に居住しながら、同建物を貸ガレージとして、月平均税込み約二万八、〇〇〇円の収入を得ているにすぎず、しかも、三〇〇万円を越える負債があって、裕福な生活を送っているとはいえないことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫。これに対し、≪証拠省略≫を総合すると、原告は、大正三年七月三日生れであって、被告との間の婚姻前からの固有財産と目すべきほどのものは有していないのであるが、現在、前記旅館「富士」の事実上の経営によって相当な収入をあげ、その生活は豊かであることを認めることができ、これを動かすに足りる証拠はない。

ところで、原告は、前記第一目録記載の土地および同土地上の前記仮設建物であるガレージを現物のまま、もしくはそれらの現在の価格金四〇九万九、〇〇〇円を原告に分与すべきであると主張する。しかし、前認定の各事実によると、原、被告の別居後すでに五年以上を経過していること、土地、建物は、現在および将来における被告の生計の基礎をなす唯一の財産ともいうべきものであって、被告から今これらをあげて取り上げることは、被告の生活を一朝にして覆えし、被告をして露頭に迷わさしめる結果を惹起しかねないものであって、被告にとって甚だ酷であること、一方、原告の前記第四目録記載の家屋についての賃借権ならびに同家屋による旅館「富士」についての営業権なるものは、それらの帰属につき、被告との間において、将来場合によっては訴訟の対象となるかもしれないことが予想されることが明らかであって、これらの事実に、前記のとおり、原、被告の離婚の原因が被告の不貞行為にあり、その慰藉料額を金二〇〇万円と定めたこと、および前認定のその余の各事実その他一切の事情を考え合わせると、右離婚にともなう財産分与としては、前記第一目録記載の土地および同土地上の仮設建物は、そのまま被告の所有として止めおき、むしろ、被告は、原告に対し、前記第四目録記載の家屋についての原告の母甲野花に対する賃借権および動産類等旅館営業用財産を含む右家屋による旅館「富士」の営業を譲渡分与すべきものとなすのが相当である。

二、つぎに、被告の反訴請求について判断する。

1、離婚の請求について

(一)  被告と原告との間の挙式、同棲、婚姻関係ならびに原、被告夫婦間の子の出生、死亡関係の各事実は、いずれも、さきに認定したとおりである。

(二)  ところで、被告は、事実摘示第二の二の1の(二)の(1)ないし(10)のとおり、民法第七七〇条第一項第五号所定の離婚原因である「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するとなし、その「重大な事由」として右(1)ないし(9)のとおり主張する。そして、≪証拠省略≫を総合すると、(1)、原告は、性格上、勝気であって、人にお世辞を言ったり、愛想良く振舞ったりすることのできない性質の持主であり、したがって、夫のために人付合いの良い妻とは決していえなかったこと、(2)、原告は、前記旅館「富士」開業後、同旅館営業のために、なり振りかまわず立ち働き、つとめて前記二子の面倒をみるということも、また、こまめに被告の身の廻りの世話をやくということもなかったうえ、昭和三二年ごろ以降は、右旅館営業上の飲物類の売上金とその仕入値との差額を被告には内密にして蓄え、これを前記二子のためなどに費消したこともあったこと、(3)、原告は、昭和三三年五月ごろ、被告には無断で家を出たことがあり、また、同年八月ごろにも、被告には無断で右二子を連れ一〇日間ほど京都の知人の家に身を寄せたことがあったこと、(4)、原告は、同年九月ごろ、○○県××の被告の旅行先へ出向いたことがあったこと、(5)、前記のとおり、昭和三六年二月ごろ以降、右旅館「富士」の経営は、原告が中心となってこれにあたることとなり、その経理関係も、原告がこれを掌握するようになったこと、(6)、原告は、同年五月ごろ、興信所に対し、被告の行動監視を依頼したこと、(7)、原告は、同年六月一八日から約二ヶ月半の間、前記母花のもとに身を寄せ、そのため、被告は、前記のとおり、飲食店「一杉」を廃業したこと、(8)、原告は、昭和三七年六月ごろ、○○家庭裁判所に対し、被告との離婚を求める調停の申立てをしたこと、(9)、さらに、原告は、昭和四〇年六月ごろ、前同裁判所に対し、被告との離婚を求める再度の調停申立てをなしたこと、(10)、そして、被告は、前記のとおり、同年一〇月ごろ、単身で家を出たことをそれぞれ認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫しかし、≪証拠省略≫を総合すると、右(1)、(2)の各事実は、いずれも、原、被告夫婦関係破綻の原因とはなっていないこと、同(3)の各家出は、いずれも、被告が前記のとおり乙村乙子とねんごろな仲となっていて、いろいろと噂までたてられておりながら、原告に対しては好い加減な返答をして、原、被告間にいさかいがたえなくなったため、原告が不本意ながら思い悩んだあげくの果てになしたことであって、しかも、前者の家出の際、原告は、被告との話合いを知人に託し、知人に説得されて間もなく帰宅したものであったこと、同(4)の原告の××行は、そのころすでに被告との間に情交関係を生じていた右乙村乙子が温泉宿での同宿を被告と示し合わせて××へ向ったのを、原告が同女のあとをつけて行って、その場を目撃現認したものであったこと、同(5)は、前記のとおり、被告が主として飲食店「一杉」の経営にあたっていたためであって、原、被告話合いのうえでなされたものであったこと、同(6)の原告の興信所依頼は、被告が依然として右乙村乙子と情交関係を継続していたためであって、前記飲食店「一杉」の定休日であった昭和三六年六月一八日には、被告が他所で右乙村乙子と待ち合わせ、夜同女と連れ立って前記飲食店にはいったところを、興信所員から現認されていること、同(7)の原告の行動は、右の興信所員の現認後、興信所員から連絡を受けてかけつけてきた原告が、前記「一杉」前の道路上で、被告と口論をして、らちがあかなかったためであって、原告は、その間、知人を介し、被告との間において、右乙村乙子と別れるよう話合いを続けたが、被告は、これに対して、なんらの確答も与えなかったこと、また、前記「一杉」の廃業も、被告が、原告の右家出中、原告の協力なくしては前記「富士」と右「一杉」とを兼ねて営業することが不可能であったためであって、その原因は、あげて被告側にあったこと、同(8)の調停申立ては、被告が依然として右乙村乙子と情交関係を続けていたためであって、しかも、その申立ては、前記一郎が発病入院したため、その後取り下げられたこと、同(9)の再度の調停申立ては、被告が右乙村乙子を前記増築二階に住まわせるようになり、右乙村乙子が、原告の、被告との別れ話をききいれなかったためであって、同調停は、財産の処理問題について折合いがつかず、昭和四〇年一二月ごろ、不調に終り、原告は、前記のとおり、本訴を提起するにいたったこと、同(10)の被告の家出は、被告と原告とが右乙村乙子のことで口論となり、前記二子が原告に加担して、被告が家に居たたまれなくなったためであって、しかも、その家出は、右増築二階への移転であって、これは、とりもなおさず、前記のとおり、右乙村乙子との同棲の開始を意味するものであったことをそれぞれ認めることができるから、右(1)ないし(10)の各事実が存したからといって、これらをもって、「婚姻を継続し難い重大な事由」となし得ないことは、いうまでもないところである。また、その余の原告の性格、仕打ちその他原告自身が作出したという原、被告間の夫婦関係の破綻の原因についての被告の右主張事実については、これに照応する≪証拠省略≫は、いずれもにわかに採用できないし、他に同主張事実を認めさせるに足りる証拠はない。そして、その余の被告の右主張事実は、その主張する事実自体が「婚姻を継続し難い重大な事由」となすに由ないものである。

(三)、なお、夫婦間の婚姻関係の継続を困難とならしめた原因が配偶者の一方のみの非行、たとえば不貞行為などによって惹起されたものである場合には、その者は、民法第七七〇条第一項第五号によって離婚の請求をすることが許されないことは、多言を要しないところである。

(四)、そうすると、被告の原告に対する離婚の請求は、理由がないから、これを棄却すべきである。

2、離婚にともなう財産分与の請求について

原告の被告に対する離婚の請求は、これを認容すべきであるが、被告の原告に対する離婚の請求は、これを棄却すべきであることは、前記のとおりであり、その認容すべき原告の被告に対する請求にもとづく原、被告の離婚にともなう財産分与関係は、これまた、前記のとおりである。

三、それで、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書を、主文第二項についての仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項、第四項を各適用し、主文第三項(財産分与)についての仮執行の宣言は、法律上許されないから、これを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 桑原宗朝 裁判官 渡辺惺 裁判官大月妙子は転勤のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 桑原宗朝)

〈以下省略〉

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